徨話§忘れられないことと忘れられること

齢六十を過ぎて、少々記憶に怪しいところが出てはきたと自覚はして
いるが、まあまあ記憶力はいいほうだと任じている。

ただ、最近になって思うことだが、記憶の保持については人それぞれ
であるとしみじみ感じるようになった。

自分自身が自己肯定的な性質であるがゆえかどうか、どちらかという
なら、自分に都合のいい記憶は忘れることなく保たれているが、黒歴
史的な類は記憶の奥底に沈められてしまっている。

自分に都合がいい記憶といっても、そもそもが覚えておく必要のない
記憶であるなら、それらも同様に記憶の底に置かれるのだ。

例えば、人に何かをしてやったとか、むしろ覚えていてもおかしくな
いようなことはすっかり記憶の外にあって、それを人から教えられて
やっと、そういうこともあったのかなと思い出すのである。

それはたぶん、恩着せがましいことが好きではないという性格に影響
されてのことで、中には“ああしてやった、こうしてやった”などと
いちいちあげつらう人もいるわけで、恩着せがましいことはなはだし
いではないか。

それで、どのようなものが忘れられずに記憶の前面に残っているかと
いえば、対人関係のどうでもいいエピソードが、浮塵子(ウンカ)のご
とくワラワラと湧き出てきては、思い出の当事者を辟易させることが
あって、覚えていないほうがよかったことばかりのような気がする。

もちろん、そんなことばかりではない。特に年月日の類に関しては、
役に立つこと少なくなく、何か会話の折には威力を発揮することにな
るのだ。

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