若話§寿命が延びたことで例えば歌舞伎

日本人男性の平均寿命も80歳を超えていて“元気な年寄り”がいるわ
いるわの昨今である。

歌舞伎でも坂田藤十郎が米寿を迎え、それを寿ぐ一幕が上演された。
そうして、菊五郎と幸四郎が76歳、仁左衛門75歳、吉右衛門74歳と、
立役の大看板が七十代半ばでも元気に舞台を務めている……さすがに
無理はせず、一日1演目に留めてはいるが。

さらに、この間も書いたことだが、2005年2月に観た人間国宝5人の
『野崎村』は芝翫77歳、雀右衛門85歳、鴈治郎74歳、富十郎76歳、田
之助73歳と、合わせれば三百八十五歳、平均年齢77歳という、それが
また、年齢を超越した恐るべき舞台なのだった。



そうして21世紀の我々は、六十代、七十代という年齢を重ねて円熟の
境地に達した役者が繰り広げる“至芸”を観ることができるのだ。

翻って、維新から明治期の役者のことを考えてみると、当時の平均寿
命は四十代半ばにも達しておらず、そこから単純に考えるなら、芸の
円熟とは無縁の、ある意味ハチャメチャでエネルギッシュな舞台では
なかっただろうか。

それはあるいは、現代の小劇団だったり、ジャニーズの連中のような
ちょっと青臭い舞台だったではと勝手に想像してしまう。ひょっとし
たら、21世紀の歌舞伎とは別物のように見えてしまうような気がして
ならないが、時代を遡って実見することは、もはや不可能である。

思い返せば戦後であっても、名優と言われた六代目菊五郎は63歳で、
初代吉右衛門は68歳で鬼籍の人となっていて、今を考えるなら、もう
少し長生きできただろうにという年齢である。

そうして我々は改めて57歳で亡くなった十八代目勘三郎、59歳で亡く
なった十代目三津五郎の早い死を惜しまずにはいられないのだ。

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