破話§六月大歌舞伎~月光露針路日本~

10日は歌舞伎座、16時半開演の夜の部である。みたに歌舞伎と題され
て、そのタイトルも『月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)風
雲児たち』というもの。みなもと太郎の漫画原作を三谷幸喜が作・演
出しての舞台。

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個人的には“けっこう楽しめちゃった”である。あれこれ言い出そう
とする五月蠅い人たちとは違って、あまり野暮なことは考えないから
今回もまあ、そんな感じで楽しんだ。

みなもと太郎の漫画は読んでいないが、井上靖が書いた『おろしや国
酔夢譚』はずいぶん前に読んでいるので、大黒屋光太夫の苦闘につい
てはおぼろげながら知ってはいる。

幸四郎の光太夫操る船が嵐に遭ってアリューシャン列島アムチトカ島
に流れ着き、そこからオホーツク、ヤクーツク、イルクーツクと苦難
の旅を続けた結果、サンクト・ペテルブルクで女帝エカテリーナに謁
見して帰国を許されるまで、10年近い歳月が流れていた。

舞台は、そんな気の遠くなるような時間の中、17人いた仲間が一人一
人と死んでいき、帰国する船に乗ったのは光太夫とあと二人だけだっ
た……シリアスな実録にギャグを散りばめて、三谷の台本はうまいこ
とできていたのである。

確かに17人の一人一人を描いていくのは大変で、一幕目は人物紹介的
なところもあったが、人間が絞られていくにつれて凝縮度は上がって
いったと思う。

特に芯となった、幸四郎、猿之助、愛之助、白鸚の人物表現は光る。
意外なことに、現代風の台詞では白鸚の歌舞伎の時の変な癖に悩まさ
れることもなかった。

その他、ラックスマン親子二役の八嶋智人が歌舞伎座の舞台に臆する
ことなく伸び伸びとした演技で客席が湧いていた。加えるなら、男女
蔵の小市と染五郎の磯吉が記憶に残る。

この先、この新作がどのような道をたどっていくのか……そういえば
同じ三谷の『決闘! 高田馬場』も再演されていない。

なお、昼の部を観るつもりはなかったが、先週の金曜日に吉右衛門の
『石切梶原』をどうしても観ておきたくて、一幕見席で観た。舞台の
中心に存在する吉右衛門の柄の大きさが、すべてを支配していた。

追記:聴こえてくる下座音楽の中で、どこか“高田馬場”で聴いたよ
うなリズムの音楽があったぞ。


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