石話§新国立劇場『影のない女』~乳母

これまでに観た『影のない女』は、1984年ハンブルク国立歌劇場来日
公演(日本初演)、1992年ミュンヘン国立歌劇場日本公演で2回、最も
近々が2003年の暮にベルリン・ドイツオペラというもの。

日本で“カイコバート”のモチーフが鳴り響くのは18年ぶりというこ
とになる。

欲を言えばキリはないが、まずもってオーケストラは大健闘と言って
いいのではなかろうか。それこそオケのリハーサルなしで本番やって
いるドレスデンとかウィーンのような色気は望めなかったが、緊張が
切れることなくシュトラウスの複雑怪奇な音楽を紡ぎ続けたのだ。

それと5人の歌手が揃ったこと。これなくしては『影のない女』は成
立しない。特に3人の女性歌手がきっちりと歌ってくれたことで舞台
が締まった。バイロイト生まれで音楽祭にも出演しているラルフ・ル
ーカスのバラクは、彼の声がキャラクターに合っていたと感じた。

ちょっとなあと思ったのは舞台装置。象徴的な家並と石が積み上げら
れた高い壁……それらが場面場面で入れ換えられていくのだが、いさ
さか能がないというか、筋とか内容からして難解なこの作品を語るに
は中途半端というのは否めなかった。あの装置でストーリーが理解で
きるとは思えない。

思えば……歌舞伎の舞台技巧を駆使した猿之助演出によるミュンヘン
版だが、少なくとも舞台設定は理解しやすかったという記憶である。
2回、3回と違った演出で観ても、今回の幕切れのとってつけたよう
な状況は、演出家が持て余してしまったような印象さえ受けるのだ。

加えて、一番の狂言回しになるべきはずの乳母の動きに物足りなさが
残った。それこそ“術遣い”なわけだし、全体が“”抗えない“超”
な世界の話と人間の世界との関わりが核の一つなのだから、ある種の
荒唐無稽さがほしかったというのが正直な感想なのである。舞台にお
いて、人間と人間ならざる存在との垣根の低さという部分にも不満が
残った。
                            [続く]

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