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浪曲の『森の石松』ではないが「何か肝腎なものを忘れちゃ いやせんか?」というわけで、バッハではいくらでも肝腎な 曲を思い出す。思い出すたびに、あまりに広大な世界に自分 の小ささを思い知ることになる。 『無伴奏チェロ組曲』である。概してバッハの曲は“夜”を 感じさせたり、夜聴くのが似合っている曲が多いような気が するが、その中でもチェロ組曲とかゴールドベルク変奏曲と かはその感が強い。 居間の照明を落として、蝋燭を2つか3つ点ける。度数の強 い酒をショットグラスに入れて、オーディオの音量も普通よ り小さめで流す第一番のプレリュードのアルペジオの奥深さ。 ごく単純なト長調の和音構成から、バッハの展開の自然さに ひきこまれてしまう。 初めて聴いたのはピエール・フルニエの端正なチェロだった。 今よく聴くのはアンナー・ビルスマで、これは聴き飽きない。 古典中の古典と言われて神格化されているカザルスの録音を 聴いたのはそういった演奏を散々聴いた後だったので、残念 ながら、この曲の発掘者としての意味合いしか感じられなか った大罰当たり者である。 もし最初にカザルスを聴いていたらこんなことは思わなかっ たかも知れない。巷間の評判にすっかり及び腰になって先延 ばしにしてしまったことが悔やまれる。 ★ひだまりのお話★ |
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