来話§1988年バイエルン国立歌劇場(Ⅴ)

『マイスタージンガー』以上に強く印象に残ったのが『アラ
ベラ』である。

最初は1回だけ観る予定だった。それが、何が悪いとかいう
ことではないのだが、トマス・アレンとアンナ・トモワ・シ
ントウの主役2人からピンとくるものがなく、自分自身を納
得させるために、どうにかチケットを都合してヴァイクルと
ポップの公演に行くことにした。

二幕までは最初に観たのとそう変わるようなところはなかっ
たのだが、第三幕で“神が降臨”した。

シュトラウスの音楽が劇の進行とともに輝きを増し始めて、
舞台全体にオーラがかかったように見えてきた。アレンやシ
ントウだって名歌手であるのだが、たぶん『アラベラ』をや
るようなタイプではないのだと思った。アレンがイングラン
ドあたりの牧場主なら、ヴァイクルはボヘミアの森林でマン
ドリカのように熊と格闘できる風情が感じられるのである。

アラベラとマンドリカの間の誤解が解け、めでたしめでたし
となるドアの外では、マンドリカの従者二人がほっとした様
子で“よかった”とうなずきあう……、このあたりの演出は
観ていて心やすらぐものがあった。

ヴァイクルとポップ……二人の優れた歌手の力がシュトラウ
スの音楽に魅力を与え、舞台を盛上げていくのをリアルタイ
ムで見ることができた。こういった経験は四半世紀のオペラ
体験の中でも稀有なことである。

【去年の今日】芸話§芸術が“芸術”として成熟するには…3

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