人話§歌舞伎役者伝[13]~坂東橘太郎~

[承前]

小柄で敏捷な坂東橘太郎は、とんぼを切るのがうまかったらしいが、
歌舞伎を観始めた頃には、四天のような役はしなくなっていた。

初めて観たのは、菅原伝授『車引』での先触れだったかと思うが、き
りっとした姿勢と口跡でもって、上手から揚幕までぶれることなく歩
いていったという、ただそれだけである。

舞台に立った経験者がよく言うことだが“上手から下手に自然に歩く
それだけのことが難しい”だそうで、我々のような素人風情が大きな
舞台に立って、上手か下手のどちらかに自然に歩いて引っ込む程度の
ことすら、他人様からみたらギクシャクしているんだという。

というわけだから、そんな当たり前のようなことでも舞台上における
バランスの存在が立ち居振る舞いを左右して、観る人に安心感を植え
付けてくれるということになる。

橘太郎は、そういったバランス感覚が舞台人の中でも優れているほう
だと思われる。一昨年のPARCO歌舞伎『決闘!高田馬場』の藪医
者役の時に見せた体の身軽さとバランスのよさが、記憶に残っている
のはそういうことなのである。
                            [続く]

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