憬話§このたびの旅[56]C.プレガルディエン

[承前]

Christoph Prégardien
Michael Gees

2008.09.03

"Die schöne Müllerin"
Liederzyklus nach Gedichten von Wilhelm Müller


一年とちょっと前だったか、クリストフ・プレガルディエンが『冬の
旅』を歌うのを聴いた。ピアノ伴奏はアンドレアス・シュタイアーだ
ったが、ピリオド楽器ではなくてモダン楽器を弾いたのである。

これがもう見事の上に見事を重ねた、本当に奇跡のような共演だった
のだ。シュタイアーが弾くモダンピアノは、F1マシーンが氷の上を
走るような、これまた“微妙”を絵に描いたようなタッチが、この世
のものとは思えず、その伴奏で歌うプレガルディエンもどこか神懸っ
ていて、シューベルトの荒涼とした世界を描き出していた。

……という去年の絶唱が今年の『美しき水車屋の娘』でも実現するか
と楽しみで出かけた。ピアノ伴奏はこれまた共演の多いミヒャエル・
ギース


実はというか、どうもプレガルディエンのコンディションが良好とは
いえず、それでも力技で最後まで歌いきるという意志の力は感じた。
こういう時の歌唱は力技とでもいえるもので、技術であるとかそんな
ものを超越してしまう。それがまた独特な雰囲気を醸し出して客席を
緊張状態に巻き込んでしまうのだ。まあ、いつもいつも神懸っていて
は生身の人間としての体が保つまい。

それよりも腰を抜かしたのはギースのピアノで、肘から先をまったく
動かさずに、指で鍵盤を撫でるように弾いているように見えるのだ。
それで出てくる音色の多彩なこと・・・。二人が録音したマーラーの
CDを聴いた時にも同様なことを感じたが、それが実演になるとさら
に表現が豊かになっていることに驚かされる。

これが凡庸な伴奏者――プレガルディエンあたりはそんな人間を起用
することはないが
――であったら、おそらくは“やっつけ”の歌唱で
お茶を濁していたかも知れない。

それと今回は、歌にもピアノ伴奏にも装飾音が付けられたり、伴奏の
音型も通常とは違った“アレンジ”が施されていて、時に驚き、時に
戸惑ったりもした。これが彼らのアイデアなのか、あるいは“異稿”
の水車屋が存在するのだろうかと考えたのである。そういう試みがな
されたリーダーアーベントだったので、プレガルディエンのコンディ
ションが万全でなかったのは実に残念なことだった。
                            [続く]

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  • これも冬の旅行の一日

    Excerpt: 【TELDEC/0630-18824-2】 ●シューベルト:《冬の旅》 D911 ⇒クリストフ・プレガルディエン(T)   アンドレアス・シュタイアー(FP) 祭りが終わった後なので告白し.. Weblog: 庭は夏の日ざかり racked: 2008-11-13 00:55