味話§箱が劇場に変わる瞬間・・・

こういう考え方もまた、擬人化の得意な日本人ならではなのかな……

人の手が入らない劇場は単なる箱

……というものである。柿落しをしたばかりの劇場やコンサートホー
ルは、まっさらで何も沁みこんではいない。劇場が劇場としての名に
恥じない風格を持つためには時間が必要ということである。

コンサートホールも、使い込まれて壁に音が沁みこんでいかなくては
ならない。これは意外と説得力があるのだ、というのはオーディオに
おけるスピーカーなどのエージングというものがあって、最初は粗い
音質が、鳴らし続けてやることで音に落ち着きがでてくるという。

これがホールにもあてはまるというのだが、あいにくとそこまで聴き
分けられる繊細な耳ではないので、例えば東京文化会館がどのように
音が変化していったのか、そんなことは分からない。

サントリーホールをはじめとする80年代後半以降にオープンしたホー
ルは、およそ開場直後に一度は出かけているのだが、だからといって
音がまろやかじゃないなとか、練れてないとか、そんなことまでが聴
きとれたわけではない。

ただ単に、真新しい落ち着かなさみたいなことは感じて、そんな気恥
ずかしさから早く抜け出てほしいものだとは思ったのだ。

さて、現在建築中の歌舞伎座である。完成して実際に中に入ったら、
間違いなく居心地の悪さを感じることだろう。10年足らずしか通って
いなかったにしても、あのどことなく雑然とした佇まいに馴染んだ身
に、小奇麗になった内部はどのように映るだろうか。そして、舞台に
役者の汗が沁みこむまでにどれほどの時間が必要なのだろうか……。

そして、いつの日か“ああ、箱が劇場に変わった”と実感することが
できるのだろうかと楽しみにしている。

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