苦話§短距離走者の孤独~ボルトの~

男子100m走の世界記録保持者であるウサイン・ボルトが、開催中
の世界陸上の100m決勝でフライング失格となった。今回から、フ
ライング一発で失格なのである。

生中継を見ていて、あまりにもわかりやす過ぎるフライングに目を疑
ったのだ。そうしていかにこの競技がデリケートなものかという深遠
を垣間見たような気がした。

フライングの様子を見た直後は“半ば故意”に近いフライングのよう
な気がした。ただ、仮に故意ではなかったにしても、今回のボルトの
コンディションは好調ではなかったようで、様々な不安の中で起きた
フライングだったと考えることはできるだろう。

素人の浅薄な推測だが、ボルトは早くあの場から去りたかったのでは
なかったか……勝つという可能性を見出せないまま袋小路に迷い込ん
でしまったボルトにとっては、競技に負けるという選択肢は思い浮か
ばなかったようで、気持ちだけでフライングしたような気がする。

100mを9秒台で走る何人かのランナーは、ひょっとして神と近い
ところにいるのかもしれないが、それと引き換えに実像は限りなく孤
独に違いないと思うのだ。一呼吸する間もなくスタートからゴールへ
飛び込むという一瞬の世界を戦うことがどれほど苛烈なことか……。

今回のフライングを見て、そんな様々な思いが頭の中を駆け巡ったの
である。

・・・東京オリンピックのボブ・ヘイズ以来、数多くの100m走者
を見てきたが、ウサイン・ボルトに至って初めて空を飛ぶように走る
様を見ているようなのだ。そんな10秒足らずの世界は一種哲学の領域
なのかもしれない。

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