僕話§マウロ・ペーター『水車屋の娘』

1月28日に武蔵野市民会館小ホールで、1987年生まれの若手テナー歌
手マウロ・ペーターが歌うシューベルトの『美しき水車屋の娘』全曲
を聴いてきた。

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26歳という年齢の歌手に円熟という言葉は必要なく、同世代の水車職
人と化して、一気呵成に第一曲から終曲まで歌い上げていったのだ。

かねがね思っていて、何かの機会に書いてもいるが『水車屋の娘』は
“テナーのもの”なのである。テノールの高音こそが遍歴する若者の
希望と心情、そして恋愛感情から一人勝手な絶望に到るまでを美しく
痛切に歌うことができるのである。

例えばシュライヤー、例えばボストリッジ、そしてプレガルディエン
のように歌えるわけでないのは当然のこと。だが“時分の花”という
強みを最大限に生かして、今でしか聴くことのできない音楽があるこ
とを身をもって示してくれたのだ。

最初の数曲こそエンジンが暖まらずなところはあったが、その後は伸
びやかで豊富な声量と正確な音程に力を得て、26歳の水車屋が成立し
たということができるのである。

65分ほどで20曲の水車屋が歌われ、まだまだ声の出し惜しみをしない
若者のアンコールが、シューベルト18歳の手になる『泉のほとりの若
者』とは、何ともしゃれたセンスだろう。この先、自分自身の寿命を
考えると、25年先くらいまで成長を楽しめるのではないかと期待して
みたいと思った。

水車屋が終わった直後の拍手は盛大なものだった。見渡したところの
様子は、なかなかに平均年齢が高いものだったが、どうしてどうして
と驚かされるほどに熱っぽい反応だったのである。

追記:伴奏を担当したのは日本人の某ピアニストだったが、残念なが
ら伴奏だなどといえる次元ではなく、例えば第11曲『僕のもの!』冒
頭の音符が潰れまくってしまい、テクニック的な問題を露呈したよう
だった。ギャランティの問題もあったとは思うが、他に人がいなかっ
たのだろうかとは、帰り道々の同居人との会話だった。


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