白話§アバドのワーグナーを考える

クラウディオ・アバドが指揮して録音したワーグナーのオペラ全曲は
『ローエングリン』だけだったと記憶している。

1998年から99年にかけて、ベルリンとザルツブルクのイースター音楽
祭で上演された『トリスタンとイゾルデ』も、2000年から01年に上演
された『パルジファル』も録画、録音はされているはずだが、正規の
音盤としては市販されているわけではない。

彼の死を知ったその日、ふと“……『パルジファル』こそ、アバドに
とってのワーグナーではないか”と想像してみたのだ。

彼が指揮した『トリスタンとイゾルデ』の実演は、清澄とか透明感と
いった形容が付いたりはしたが、深い情念のような表現は存在してい
なかった。

これが『パルジファル』だったらどうだったのだろう。複雑な和声と
感じるわけではない、ごくごくシンプルと見えるパルジファルのスコ
アを一点の濁りもなく再現してくれるのではないかとそう思ったのだ
がどうだろう。

あるいは、彼が『パルジファル』をバイロイトで指揮したらどうだっ
ただろうか。6年前に聴いたダニエレ・ガッティはアバドと同じイタ
リア人だったが、色彩を感じさせる指揮をしていたと記憶していて、
アバドとはまったく違うタイプだったと思うのだ。

アバドがバイロイトで『パルジファル』を振っていたら……ウィーン
国立歌劇場の音楽監督やベルリン・フィルの芸術監督を長く務めてい
たし、ベルリンの最後期は癌を発症していたので、こればかりは見果
てぬ夢ということなのである。

ちなみにアバドは『パルジファル』の前奏曲や聖金曜日の音楽などは
録音してはいるのだが。

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