雅話§百人一首考[38]~わすらるる~

[承前]

右近(うこん)

忘らるる 身をば思はず 誓ひてし
人の命の 惜しくもあるかな


この歌も詠んだ作者も知らない。右近というから男性かと思っていた
ら女性だったりして、そういえば平安時代には女性の名前は“誰某の
娘”というだけでしか記録に残っていないという、それはずいぶんな
話だと思うのだけれど、当時の意識のありようというのはどんなもの
だったのだろう。

何しろ生没年すらわからないから、いくつか残った歌でもって本人な
りを推測するしかない。

それにしても、平安の御世に“永遠の愛を神に誓った”という発想の
ようなものが存在していたのかと思った。永遠の愛というものは、ど
ちらかといえばキリスト教社会の専売だと思い込んでいたから、歌の
現代語訳を読んで戸惑ってしまったのだ。

洋の東西を問わず、神へ永遠の愛を誓うという行為が、古も今の世も
安定でインフレ気味なことに残念ながら納得するしかないのである。
……まあ、右近が詠んだこの歌の恨み節もまた空恐ろしい要素がある
とも感じてしまうのであるが。

追記:というわけで、休暇旅行中の百人一首考はお休みいたします。
                            [続く]

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