悠話§定年直前旅[24]バイエルン放送響

[承前]

というわけで、オーケストラ全体が見渡せる2階席後方に陣取っての
バイエルン放送響である。

指揮は目下売り出し中のアンドリス・ネルソンスで、ベルリン・フィ
ルの芸術監督選考では、有力候補に残りながらも、結局選ばれたのは
キリル・ペトレンコという結果になってしまった。

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1曲目はデンマークの作曲家ハンス・アブラハムセンがポール・グリ
フィスの詩に音楽を付けた“Let me tell you”なる30分ほどの曲。

ソプラノ独唱はバーバラ・ハニガンという初めて聴く歌手で、彼女の
声を想定して作曲されたようである。音楽は、微細な音に終始しての
40分間ほど。時には自然音のさざめき、時には人の囁くような声と、
ひそやかながら音楽は雄弁である。

バーバラ・ハニガンの繊細で清冽なソプラノの歌声が、そんなさざめ
きの森を彷徨っているように感じられた。声量はないけれど、彼女で
なければ歌えないだろうと思わせるものがあった。そして一瞬だが、
キャシー・バーベリアンのことを思い出したのだ。

現地評では『ハムレット』に登場するオフィーリアを想起させるとか
書かれていたが、さしずめラファエル前派の画家J.E.ミレイが描いた
オフィーリアであろうか。

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指揮者もオーケストラも聴衆も集中を強いられストレスを感じた……
そんな音楽の後に演奏されたのは、いかにも開放的なドボルザークの
交響曲第6番。

ネルソンスのしなやかな指揮はオーケストラを十分に歌わせ、生き物
のように自在に伸び縮みするテンポとダイナミックレンジを堪能させ
てもらった……今回聴いた演奏会の中でも特筆して記憶に残る一夜。

なお座った席のアコースティックはバランスよく良好なものだった。
次の機会にも同様の席に座れればいいのだが。
                            [続く]

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