化話§蟄虫培戸~七十二候~秋分

秋分の次候“蟄虫培戸(むしかくれてとをふさぐ)”である。

尾瀬ヶ原に立っていると、ドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』
が聴こえてくることがある。もちろん空耳なのだけれど、登山客が少
なくなる8月中旬で盆が過ぎた頃。眼に立つ花もなく、少し疲れた緑
が陽に揺らぐ昼下がりに、拠水林とそれを形造った流れに架かる木橋
に腰を下ろしているうちに……聴こえてくるのだ。

今日は尾瀬ヶ原に身を置いているが、既に牧神の姿は見えない。ドビ
ュッシーは聴こえないけれど、今の耳に響いてくるのは、ブラームス
だったりする。

秋から冬はブラームスの季節だと勝手に思い込んでいて、それならば
交響曲よりは室内楽だろうと頭の中を流れてきたのは、クラリネット
五重奏曲。夕方に近づき、陽も傾いた少しばかり赤みを帯びた光線が
草紅葉となった湿原、その先の至仏山を渋く色づかせる瞬間、くぐも
ったクラリネットが耳に響くのだ。

それは、単なる思い込みであるに違いはないのだけれど、晩秋の風景
とブラームスの音色は、間違いなくシンクロして渾然一体となるので
ある。

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