懐話§昭和三十年代~玄関と勝手口~

[承前]

朗らかと言ってよかった昭和時代の日本家屋の玄関は、日中であれば
常に鍵など掛けられることもなく、ご近所さんであれ、突然の来客で
あれ、玄関の戸をガラリと開けては……

こんちは、誰かいる?

……今だったら、突然に他人様の家を訪問するなど考えられず、あら
かじめ電話などで来意を伝えるというのがマナーだったりするが、電
話がある家などほとんどなかった頃は、とりあえず家に行ってみるし
かなかったのだということに思い至る。

だから、呼び鈴のようなものの設備のあるようなお宅でない限りは、
玄関の戸に鍵を掛けて戸締りをするなどとは考えられなかったのだ。

実家も同様で、完全に留守にする時については、引き戸の玄関にネジ
式の鍵を掛け、反対側の勝手口から出かけて行くというスタイルをと
っていたが、そういえば勝手口に鍵を掛けていたのかといえば、掛け
ていなかったのではなかったか。

今、勝手口と書いたけれど、勝手口というほどに上等な類ではない。
単に台所から外に出るためのものでしかなく、夜になって寝る時には
つっかい棒程度で戸締りをしていた。

玄関はもう少し厳重だったが、これまた雨戸を引っ張り出して、つっ
かい棒で完了である。その時代にだって泥棒は存在していたが、単に
盗られても困るような貴重品などあるはずもない、貧乏な三軒長屋の
真ん中のボロ家だったのである。
                            [続く]

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