歳話§初めての定年[35]生き残ったのか?

[承前]

広告業界ナンバーワンの“電通”が、またも自殺者を出し、ようやく
裁判で労災認定がなされたのは先々週のことである。長時間労働に加
えてパワーハラスメント的な要素も含まれていると想像できる。

自殺した新入社員は百時間を超える残業の中で鬱病にむしばまれてい
ったことが、ツイッターの書き込みからもうかがい知れたが、自殺を
とどまらせることはできなかった。何とも心が痛む死には、鈍感極ま
りない電通という会社へのやり切れない怒りを覚えてしまう……そん
な電通のどこが一流企業なのかと。

かくいう自分自身も、会社生活で入社以来半分以上の年月を、残業時
間数十時間から百時間超という環境で過ごした。それだけの残業時間
でも何とかなったのは、昼頃出社すればいい職種だったことが大きい
かもしれない。仮に午前様や朝帰りになっても、定時出社する必要は
なかったからだ。

そうではあるけれど、ブラックな環境は似たり寄ったりだったから、
いつ何時自分もそうならないとは言えないような状況にあったのは間
違いない。

例えば9時半~17時半出勤の人が2時間残業するとしたら、会社を出
るのは19時半で、それくらいは珍しくもなんともないだろうが、それ
でも鬱になる人はなってしまう。逆に毎月百時間の残業をしてもなら
ない人はならない……時間の長短の問題ではなく、仕事をする環境の
問題なのである。

“自分もしていたから後に続く人間もできる”などと考えている上司
や会社の労務管理は失格もいいところで、少しでも改善をするべく心
を砕くものではないだろうか。広告代理店に勤めていた人が、業務の
内容を書いているのを読んだが、なるほどそれでは長時間労働になる
のも無理はないと思った。

そしてこれは、一企業だけの問題ではない。日本社会に連綿と流れ続
るありとあらゆる悪癖が折り重なって彼女を“殺した”のだと考えた
のだがどうだろうか……本来であれば個人の問題をきちんとケアして
こその社会であり会社組織ではないか。

自分自身は、たまたま定年まで勤めて退職することができたけれど、
一歩間違ったら似かよった境遇になってもおかしくはなかったのだ。
                            [続く]

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