生話§家を出て行く人

どうにも……自己愛に満ち満ちていた父親とその兄弟姉妹之圖なので
あった。もちろん、どんな家庭だって一つや二つは自慢の種を持ち合
わせているのは言うまでもないが、それが行き過ぎていたのである。

子供の頃は、それ以外の情報量が少ないものだから“我が家一番”を
信じ込んでいた節があったのは否定できない。だが、外界との接触が
増えれば増えるほど、我が家など吹けば飛ぶよなものであるという、
そんな認識が当たり前のようにできあがっていった。

不思議なことは、大の大人がそんな虚構を信じ込んでいたことで、そ
こにどんな根拠があったものかと訝しく思うのだ。

まあ、そんな自己愛に対してシニカルになったのは小学生中学年の頃
で、自慢すればするほど、そんな家からの距離を置きたくなるのも無
理はない。

そうして齢二けたを数えた頃には、いつか家を出て行こうと思い定め
たのだった。たぶん“この家は長居する場所ではない”と気がついた
わけで、そんな空間で虚勢を張るほどの馬鹿でもないとも思ったのは
間違いなかった。

根拠なく空虚な空気の中で生きられるほど、自分をだませるわけでも
なかったわけで、そういった環境に口や行動で異議を唱えるでもなく
自分の中では単純明快に粛々と脱出計画を練っていたわけである。

そういえば“クール我が国”だとか“自国ファースト”とか、あちこ
ちで言い出しているそんな御時世だが、それほどに思い込んでいたい
ものかと……何とも不安な時代が始まっている様子に、ひょっとして
我が身にもそうした責任の一端があるのだろうかと、いやな気持ちに
なりそうなのだ。

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