憬話§このたびの旅[37]マイスタージンガー

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↑ハンス・ザックスが没して数十年後、1640年頃のニュルンベルク遠望

[承前]

★Bayreuther Festspiele★
Die Meistersinger von Nürnberg 16:00-22:40 27.08.2008

自分自身の感性に照らし合わせるなら、過去に観たワーグナー演出の
中でも特筆して“最悪”の舞台上演だった。そんな『ニュルンベルク
のマイスタージンガー』に関して何回かに分けて書くつもりなどなく
“一話完結”である。

……なので長文であり、以下これ悪口雑言のオンパレードでもある。

断っておくが、クラシックを聴くとかオペラを観るということは、こ
れすべて自分自身のための楽しみであって、学問的専門的にそういう
分野を解き明かしていこうなどということなど考えたこともなく、だ
からあくまでも素人の視点として、眼の前に提示されたものを云々し
ているだけである。それから、ラジカルであるとか、現代的だとか、
そういった演出については十分に寛容な人間である。この演出を担当
したリヒャルトの末裔たるカタリーナ・ワーグナーは……

ワーグナー家の人間だからワーグナーの作品が冒涜できる

と嘯いたらしい。乳母日傘でちやほや育ったとしか思えない浅知恵の
お嬢さんが、自分の曽祖父の作品に対して敬意の欠片も持ち合わせず
調子に乗った浅知恵でもってとっ散らかしたのがこの体たらくという
しかない。一度でもこの舞台観ればわかるが、冒涜にすらなっている
とも思えない。おまけに……

ブーイングする観客は彼ら自身がナチなのだ

……なる趣旨の発言もしたらしい。演出解釈に対してブーイングする
人間をナチ呼ばわりするなど、あまりに一方的に過ぎて勘違いも極ま
れりというところか。

ほとほと“恥かきっ子”のお馬鹿娘である。

要するに我々は、アイデア倒れのとんでもない出来損ないの舞台を見
せられたわけだったのだ。二幕の休憩が終わって席に戻る時に出くわ
した迷える日本人女性からの一言……

あのぅ・・・これ・・・観てて楽しいですか???

という自信を喪失したような質問を受けた。即座に“最悪です!”と
答えておいたのだが、いずれにしても二度とこの舞台は観ない。いや
観なかったことにして記録から抹消したいくらいである。

歌手陣に魅力がない。ハウラタのザックスがその代表で影が薄いこと
このうえなかった。トンデモ演出をはね返せそうなのはミヒャエル・
フォレのベックメッサーくらいしか考えられず、フォクトのワルター
は去年の印象どおりのリリックな声で物足りなかった。あるいはあの
広告代理店のチンピラデザイナーがプレゼンをするような役には合っ
ているということか。

それとバイロイトを漂っていた噂だが、来年のマイスタージンガーの
チケットの売行きが芳しくないのだそうだ。まあ当然のことだろう。
父であるヴォルフガンクは、招聘した演出家のために、自分が演出す
る舞台の予算を抑え目にしたらしいが、孫のような娘に対しては大い
に甘かったようで、湯水のような金の使いように思われた。

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個人的には、現在上演している『指環』も『トリスタン』も『マイス
タージンガー』ももう一度観に行こうなどとは思わない。まあ、日本
人など数のうちに入ることはないだろうが、毎年のようにお参りをし
ている現地の人達にしてもリピートが減っているのだそうだ。あんな
舞台を見せられては、いくら音楽が素晴らしいとしても行く気が失せ
るのも無理はない。

ところがマイスタージンガーは音楽も“よくない”のであった。まず
もってオーケストラが鳴らないし音楽の運びも悪かったりしたのだ。
10年ほど前にバレンボイムの指揮で聴いた時も、ピットから音が出て
こないような印象を持ったが、今回も同様な印象だった。

昔から、マイスタージンガーの音楽とバイロイトのピットとは相性が
悪いとか言われているようだが、どうやら間違いがなさそうである。
それがいかなる理由によるものかはわからないのであるが。

ということとは別に、セバスティアン・ヴァイグレ指揮するワーグナ
ーの音楽がちっとも魅力的でないのだ。

最後になるが、合唱の扱いがあまりにも可哀想である。マイスタージ
ンガーを含めて合唱が登場したのは4演目あったが、今回はどうも今
ひとつ精彩がなかったという印象だった。合唱については稿を改めて
書こうと思う。

僥倖だったことがたった一つ。座った席が4階(Galerie rechts)で、
チケット代は一枚28ユーロほど。そんな席で観ていてですら腹が立っ
たのである。

期間中に上演中のブーイングを2回聞いたが、そのうちの一回は三幕
で隣町の“フュルト”からやって来たお嬢さんたちが踊るという場面
でのあまりに度を越したおふざけの時である。

カタリーナには演出するという切実感が完璧に欠如している

以上『ニュルンベルクのマイスタージンガー』は一回でおしまい。
                            [続く]

↓上と同じ版画制作者マテウス・メリアンによるニュルンベルク鳥瞰図
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付記[1]:一部1ユーロで売られている当日の配役表に断り書きがあ
った。曰く“舞台演出の都合で一幕の後と二幕の後のカーテンコール
はない”……床に散乱したペンキなどの液体類を処理するためらしい
が、ついでなら三幕もカーテンコールしなければよかったのに。

付記[2]:3幕でダーヴィットが階段をパカっと開けて出入りしてい
たが意味不明。頭を一瞬よぎったのは『義経千本桜』の狐忠信。


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